『何の意味も持たないパターンなど存在しない』by ウイリアム・モリス
視覚的に調和のとれたデザイン構造の「イチゴドロボウ」。
美しいリピートデザインがカントリーガーデンに咲く花々や生物の息吹をチャーミングに、そしてストーリー仕立てに描いています。野生的な自然と快適な田舎町の生活の出会いを感じさせるのです。
モリスの時代、「イチゴドロボウ」に使われた技法はインディゴ抜染プリント、日本で言う藍染でした。当時のイギリスには無い技法で、インド染料を専門とする印刷業者兼実業家、トーマス・ワードルと共にインドでインディゴ抜染プリントを確立しました。
その後モリスは、インディゴ抜染プリントを多用しますが、それは伝統的な技法を復活させたいという想いがあったからです。
モリスのデザインを生み出す上で、『抜染』は欠かせません。
『抜染』は、はじめに生地全体を染液に浸し藍色に染めます。
次に、絵柄部分に木版で溶剤を着け(ブロックプリント)絵柄部分を脱色します。
そうすることで、デザインパターンが表現されます。
時間と手間のかかる作業ですが、これこそがモリスの愛した色彩であり、この工程から生み出される色の濃淡は、モリスのデザインに欠かせないものでした。
『イチゴドロボウ』は、モリス(1881-1940)とリバティー(1904-1982)というイギリスを代表するマートン・アビー工房でプリントされた生地です。
『イチゴドロボウ』は、3つの工程があります。
1⃣ 生地全体をインディゴに染色し、工房のそばを流れるワンドル川ですすぎます。
2⃣ 青く染めた生地に、色が抜ける抜染糊をつけてデザインのアウトラインを出して青い色を抜いていきます。
3⃣ 最初に赤、黄色の順で木版を押します。オリジナル生地にはグリーンがありますが、これは生地の藍色と版で押した黄色が混ざり合って表現された色なのです。
トーマス・ワードルとの長い時間をかけた研究と試行錯誤を重ねた結果、モリスはこの技法を確立し、マートン・アビー工房を開設したのです。
ここから、たくさんのMORRIS.&Co.(モリス商会)の商品が生み出されていきました。
モリスのこだわりは、天然染料を使って表現される豊かな深みのあるいきいきとしたカラーがとても魅力的だと考えます。
天然染料が表現する色や、時間の経過とともに馴染んでいく色合いに興味を抱いていたのではないでしょうか。
現代の私たちは、新しいものを取り入れると、古いものを捨てていきます。
この技法からは、時間の経過とともに表現される『美』の価値に立ち返り、世代を超えてもなお使い続けられるものであること、モリスがこだわった手仕事への回帰やものを大切に使うという信念を感じます。
世界中で人気の『イチゴドロボウ』は、忙しい日々のなかでも自然に立ち返るということを思い出させてくれるデザインだからではないでしょうか。
ウイリアム・モリスの本懐(その3)へ続く。。。
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